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≪知財判例紹介トマト含有飲料事件」≫

28年行ケ第10147号 特許権審決取消訴訟  
平成285
19日 知的財産高等裁判所 判決言渡
平成29年6月27日 最高裁 判決言渡
 


【1】事件の概要

[原告]カゴメ株式会社
[被告]株式会社伊藤園(特許権者)
[関連条文]特許法第36条第6条第1項、サポート要件違反
[事件の経緯]
 ・平成23年4月20日 出願 特願2011-94186
            (本件出願),伊藤園

 ・平成25年2月 1日 登録 特許第5189667
            (本件特許)

 ・平成27年1月 9日 無効審判請求 
             無効2015-800008号,カゴメ

 ・平成28年1月 5日 訂正請求(本件訂正),伊藤園

 ・平成28年5月19日 本件訂正を認め、無効審判請求
             不成立とする判断,特許庁
             →審決取消訴訟 平成28年行ケ
             第10147号,伊藤園

 ・平成29年3月 2日 無効審判の審決取消の判断、
             知財高裁
             →最高裁に上告,伊藤園

 ・平成30年6月27日 上告を退ける判断,最高裁


【2】本件発明について

 本件発明は、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された、新規なトマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法を提供することを課題とします。課題を解決する手段として、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量の数値範囲が下記請求項1のとおり特定されています。

<訂正後の請求項1>

【請求項1】
   糖度が9.4~10.0であり、糖酸比が19.0~
  30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の
  含有量の合計が、0.36~0.42重量%であるこ
  とを特徴とする、トマト含有飲料。


【3】知財高裁のポイント

本事件は、食品のパラメータ発明に関するサポート要件が問われた
 本事件は、トマト含有飲料の「糖度」「糖酸比」「グルタミン酸及びアスパラギン酸の合計量」を所定範囲とする、いわゆるパラメータ発明において、実施例における風味評価(官能評価)に関するサポート要件が判断された事案です。

本判決では、偏光フィルム事件における基準が踏襲された
 本判決は、明細書のサポート要件に適合するための基準として、偏光フィルム事件;知財高裁平成17年11月11日判決、平成17年(行ケ)第10042号、判例時報1911号48頁に参照される記載を踏襲しています。(以下、判決文より抜粋)

 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。」

 「このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。」 

                     
パラメータ以外の要素が、課題の風味に対し影響を及ぼすか否か
 判決文では、食品のパラメータ発明において、課題となる風味に影響を与える要素は、当該パラメータだけなのか、他に要素があるのか、そして他に要素がある場合には、当該他の要素を加味した官能評価が行われているのか等を明らかにしない場合には、パラメータと当該風味との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえず、サポート要件を満たさない旨が述べられました。(以下、判決文の抜粋。下線は筆者記入)

「一般に、飲食品の風味には、甘味、酸味以外に、塩味、苦味、うま味、辛味、渋味、こく、香り等、様々な要素が関与し、粘性(粘度)などの物理的な感覚も風味に影響を及ぼすといえるから、飲食品の風味は、飲食品中における上記要素に影響を及ぼす様々な成分及び飲食品の物性によって左右されることが本件出願日当時の技術常識であるといえる。また、トマト含有飲料中には、様々な成分が含有されていることも本件出願日当時の技術常識であるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味の評価試験で測定された成分及び物性以外の成分及び物性も、本件発明のトマト含有飲料の風味に影響を及ぼすと当業者は考えるのが通常ということができる。したがって「甘み」、「酸味」及び「濃厚」という風味の評価試験をするに当たり、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量を変化させて、これら三つの要素の数値範囲と風味との関連を測定するに当たっては、少なくとも、①「甘み」、「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるのが、これら三つの要素のみである場合や、影響を与える要素はあるが、その条件をそろえる必要がない場合には、そのことを技術的に説明した上で上記三要素を変化させて風味評価試験をするか、②「甘み」、「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与える要素は上記三つ以外にも存在し、その条件をそろえる必要がないとはいえない場合には、当該他の要素を一定にした上で上記三要素の含有量を変化させて風味評価試験をするという方法がとられるべきである。

「(本件明細書中において)「甘み」、「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるのが、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量のみであることは記載されていない。また、実施例に対して、比較例及び参考例が、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量以外の成分や物性の条件をそろえたものとして記載されておらず、それらの各種成分や各種物性が、「甘み」、「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるものではないことや、影響を与えるがその条件をそろえる必要がないことが記載されているわけでもない。そうすると、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたとの風味を得るために、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量の範囲を特定すれば足り、他の成分及び物性の特定は要しないことを、当業者が理解できるとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と、得られる効果というべき、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を、当業者が理解できるとはいえない。


官能評価に関するサポート要件の客観性
 本事件では、風味評価(官能評価)に関するサポート要件が争点の1つとなっています。風味評価の客観性が担保されない場合には、結局のところ、目的とする風味が得られたのか否か当業者が理解できるとはいえず、したがってサポート要件を満たさない旨の判断がなされました。(以下、判決文の抜粋。下線は筆者記入)

「本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味の評価試験の方法は、前記(3)のとおりであるところ、評価の基準となる0点である「感じない又はどちらでもない」については、基準となるトマトジュースを示すことによって揃えるとしても、「甘み」、「酸味」又は「濃厚」という風味を1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかをパネラー間で共通にするなどの手順が踏まれたことや、各パネラーの個別の評点が記載されていない。したがって、少しの風味変化で加点又は減点の幅を大きくとらえるパネラーや、大きな風味変化でも加点又は減点の幅を小さくとらえるパネラーが存在する可能性が否定できず、各飲料の風味の評点を全パネラーの平均値でのみ示すことで当該風味を客観的に正確に評価したものととらえることも困難である。また、「甘み」、「酸味」及び「濃厚」は異なる風味であるから、各風味の変化と加点又は減点の幅を等しくとらえるためには何らかの評価基準が示される必要があるものと考えられるところ、そのような手順が踏まれたことも記載されていない。そうすると、「甘み」、「酸味」及び「濃厚」の各風味が本件発明の課題を解決するために奏功する程度を等しくとらえて、各風味についての全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価する、前記(3)の風味を評価する際の方法が合理的であったと当業者が推認することもできないといえる。

以上述べたところからすると、この風味の評価試験からでは、実施例1~3のトマト含有飲料が、実際に、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味が得られたことを当業者が理解できるとはいえない。」

【4】コメント

 本事件は、食品関係のパラメータ発明においてサポート要件の充足が具体的に示され、かつその判断が最高裁で指示されたという点で非常に注目されます。

 食品発明において、特定の成分をパラメータ(数値範囲)で示すことや、パネラーによる官能評価を行うことは、よく行われる手法です。そのため、今後は、出願時点において、パラメータとそれ以外の要素と効果との関係、および官能評価の客観的性という点を、充分に念頭においた明細書を作成することが重要であると思われます。

弁理士 栗田由貴子