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<<進歩性判断に関する判決例>>


拒絶査定を維持した審決を不服とする審決取消事件の判決において、特許庁の進歩性の判断が覆された事例として、審決取請求事件を紹介いたします。

平成19年(行ケ)第10095号「再帰反射製品及びその製造方法」

本件事件では、本願発明におけるバインダー層が着色バインダーであるのに対し、引用発明では、そのような限定がないという相違点に関し、容易想到性が争点の1つとなりました。
 上記相違点に関し、特許庁は「着色したい部分に着色するということは何ら例示する必要もないほど社会で普通に行われていることである」という主張を行いました。
 これに対し、裁判所は、本願発明におけるバインダーを着色する技術的意義と、引用発明における光透過部分を設けることの技術的意義を検討し、光透過部分を設けることが引用発明の技術的特徴であるから、引用発明の光透過部分を本願発明の着色バインダー層のように蛍光色を典型とする目立つ色で着色し、光透過性でないものにすることは、引用発明の必須の構成である光透過部分の光透過性を喪失させることにほかならず、相違点1の構成を引用発明から容易想到ということはできないと判断しております。

本判決は、引用発明において、汎用の手段(即ち、着色したい部分に着色するということ)を採用する動機付けがない(あるいはさらに阻害要因が存在する)ことが認定された事例であります。本事件は、発明の進歩性が争われた1つの事例にすぎませんが、本判決に示されるように、技術的意義を踏まえて発明の進歩性が理解されることを念頭に、明細書作成にあたっては、発明の本質が理解されるよう従来技術や課題において丁寧な記載を心がけることの重要性が示されたよい例である思われます。

 

・・・・・・・・・・・・・判決の概要・・・・・・・・・・・・・

(1)本願発明の要旨は以下のとおりである。
「a)第1及び第2主要表面を有する着色バインダー層;及び
b)前記着色バインダー層の第1主要表面に部分的に埋め込まれた部分を有し、且つ、そこから部分的に突き出た部分を有するガラス又はセラミック微小球の層;
を含む微小球が露出している再帰反射製品であって、
前記バインダー層及び前記微小球の層が、昼間の照明条件下で見た場合に実質的に異なる再帰反射度を示し、且つ、顕著に異なる色を呈する第1及び第2セグメントに分けられており、
前記第1セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分に配置された反射性金属層を有し、そして前記第2セグメントが微小球の層の埋め込まれた部分の後方に機能的に配置された反射性金属層を有しないことを特徴とする、微小球が露出している再起反射製品。」

本願発明は、高速道路の建設及び補修作業者並びに消防士により着用される衣服において使用される再帰反射製品を主眼とし、従来、かかる再帰反射製品は、蛍光色の布帛の表面の所定の領域に、再帰反射材料を貼り合わせるか、接着させることにより製造されてきたことの問題点を挙げ、それを解決することを目的とするものである。
 即ち、本願発明は、再帰反射縞(第1セグメント)と着色セグメント(第2セグメント)との2種の異なるセグメントを含む単一の構築物を形成することによって、第1セグメントの再帰反射領域が離層ないし基材から分離しないとか、より少ない層で済むため衣服の総重量を減らしその柔軟性を高めるとか、第2セグメントは、第1セグメントと同程度に再帰反射性ではないものの、上記従来製品の非再帰反射性の蛍光色部分よりも高い再帰反射性を有するなどといった効用を発揮する再起反射製品を提供することを目的としている。
 上記第一セグメントは、反射性金属層の存在により、より高い再帰反射性を示し、一方、第二セグメントは、反射性金属層を有しないことにより着色バインダー層の色が微小球を通して見ることができ、従って、第2セグメントは昼間の照明条件下で第一セグメントの色とは顕著に異なる色を呈するものである。

(本願明細書図3)


30 再起反射製品
32 第一セグメント
34 第二セグメント
36 微小球
40 第一主要表面
42 バインダー層

(2)引用発明

 特許庁は、引用発明として実開昭50−154747を用いた。引用発明1の概要は、以下の通りである。
「光反射層に所定パターンの光透過部分を形成し、少なくとも前記光反射層上に当面ビーズを存在せしめてなる再帰反射シート。」

上記引用発明は、再帰反射シートであって、特に交通標識や電飾サイン装置等の表示又は装飾装置に用いる再帰反射シートに関するものである。
 上記引用発明の構成は、従来の反射シートは、光反射層が全面に設けられているため前方側から光を照射したときには再帰反射光が観察されるが、光反射層の後方側から光を照射した場合には前方からこの光を観察し得ないという課題を踏まえ、これを解決するための技術的特徴を備えるものである。すなわち、光反射層の前方からの再帰反射光及び後方からの透過光をいずれも観察できるように、光反射層(例えばアルミニウム層)に所定パターン(例えば市松模様)の光透過部分を形成する点に技術的特徴を有する。

(引用文献図2)

1 再帰反射シート
2 基板
3 光反射層
4 光透過部分
5 接着剤層
6 ガラスビーズ

(3)本願発明と引用発明との相違点、および容易想到性の判断
(3)−1
 特許庁は、本願発明と引用発明を比較し、以下の3つの相違点を挙げている。
<相違点1>
本願発明は,バインダー層が着色バインダーであるのに対し,引用発明では,そのような限定がない点。
<相違点2>
本願発明は,バインダー層及び微小球の層が,昼間の照明条件下で見た場合に実質的に異なる再帰反射度を示し,且つ,顕著に異なる色を呈するのに対し,引用発明では,そのような限定がない点。
<相違点3>
本願発明は,「反射性金属層を有しない」構成に,「機能的に配置された」との限定がされているのに対し,引用発明では,そのような限定がない点。

(3)−2
 上記相違点1に関し、特許庁が容易想到であるとする見解に対し、裁判所がこれを認めない判決を言い渡している点(原告の申し立てる取消事由4に相当)に着目し、以下、記載する。

特許庁は、上記相違点1において、
「引用発明は再帰反射シートであり,本願発明は再帰反射製品であって,再帰反射シートが再帰反射製品の下位概念のものであることは明らかであるから,両発明は技術分野が異なるものではない」旨を述べている。
 そして引用発明の接着剤層を着色することについて、
「着色したい部分に着色するということは何ら例示する必要もないほど社会で普通に行われていることである。着色の目的も識別性を高めるとか美的効果を高める等種々あるが,いずれも技術的に議論するまでもなく当然のことである。したがって、(引用文献1において引用発明における)接着剤層を着色する動機付けがないとか,阻害要因がないという主張は認められない。」等、述べている。

これに対し、裁判所は、相違点1に関する本願発明と、引用発明の技術的意義を対比した上で下記のとおり判断している。
 即ち、「引用発明は、その意義ないし技術的特徴に鑑みれば,引用発明における光透過部分は光を透過し得るものであることを必須の構成とするものである。一方、本願発明は、その意義ないし技術的特徴に鑑みれば,着色バインダー層の構成は,蛍光色を典型とする目立つ色で着色されることを予定しており,しかも第2セグメント部分において従来技術のものよりも高い再帰反射性を有することが期待されていることからすれば,少なくとも着色バインダー層が透明ないし光透過性のものであることは予定されていないと認められる。
 そうすると,引用発明の光透過部分を本願発明の着色バインダー層のように蛍光色を典型とする目立つ色で着色し,光透過性でないものにすることは,引用発明の必須の構成である光透過部分の光透過性を喪失させることにほかならないから,相違点1の構成を引用発明から容易想到ということはできない。」

尚、上記相違点2に関しても、本願発明の第1セグメントは第2セグメントに対して実質的に入射光をより多量に再帰反射するものである(即ち、両者が異なるセグメントとして識別される)のに対し、引用発明は、通常の照明下において光反射層と光透過部分の再帰反射度ないし色を異なるものとして認識することは不可能といわざるをえない、として、特許庁のくだした本願発明の容易想到性の判断を否定している(詳細は割愛させていただきます)。

                                         以上